脊椎・脊髄疾患に対する手術に関する説明

 患者様本人が、自分の病気に関するすべての情報を知った上で、自分の意志で治療方法を決定する<自己決定権>を、患者様が持つと同時に、自己責任が求められています。わたしどもは、この治療方法決定の為に、すべての情報お示しします。

手術までのおおまかな予定

  1. 1:病気の診断、治療方法の提示
  2. 2:手術の提案
  3. 3:説明文書の受け取り
  4. 4:説明会 手術の受諾あるいは別の治療法の選択
  5. 5:検査の追加、全身状態の検査(心臓、肺、肝臓機能などについて)
      検査結果に異常がある場合は、他の専門家への診察や場合によっては治療
  6. 7:入院、麻酔科医師による診察(全身麻酔が安全にかけられるか否かの決定、麻酔に関する危険性などの説明)
  7. 8:補足の検査
  8. 9:手術同意書などの提出
  9. 10:手術

脊椎脊髄疾患における手術全般に関する説明

各種ある脊椎脊髄手術のうち、全般的に共通する事項を述べます。

診断名

 患者様の診断名、鑑別診断は別紙において説明いたします。

 手術前には最善の方法でできうる限り、真の診断となるよう努力いたしておりますが、いかんせん診断には不確定要素がございます。手術によって最終的に診断がなされる場合もございます。手術後、診断名がかわることもあることをご理解ください。

治療を受けない場合の不利益

 各疾患の説明のところで述べるつもりですが、必要に応じて説明を追加します。

 神経組織の障害が、ある限界(障害の強さ、障害の時間)を超えると、たとえ原因が除去されても、再びその機能を完全には回復できなくなります。また、これら神経組織の障害と脊椎、椎間板、靭帯の損傷や変形は放置していても決して治りません。ですから、神経組織の障害の度合い、脊椎、椎間板、靭帯の損傷や変形の度合いに応じた 適切な治療を可及的速やかに受けることが必要です。ただし、神経根症などに限っては、時間(3ヶ月~半年ぐらい)とともに自然に症状が緩解することも多いです。

治療方法の選択

保存的治療

薬物対症療法:鎮痛薬、ビタミン剤など

理学療法:ホットパック、レーザー治療、牽引、針灸など

装具装着:ネックカラー、コルセットなど

他に保存的治療といえば、化学療法、放射線治療がありますが、脊椎脊髄の病気にはこれらは当てはまりません。

 上記は、いずれも保存的治療で、体を傷つける事はなく、合併症も極めて稀です。しかし、上記治療方法のうち、ネックカラーを除いて、他の治療は痛みとの兼ね合いだけです。ネックカラーの装着も長期間は勧められません。ネックカラー、コルセットの装着によって、筋肉が弱って、抱縮し後にさらに痛みが増す事があります。

 この病気、病態は、神経組織への物理的圧迫なのですから、薬物などの上記保存的治療で、出っ張った骨を溶かしたり、引っ込めたりすることはできません。ですから、これらの保存的治療方法は根本的、抜本的治療ではありまでん。端的にいえば<手術>でしか現状を根本的、抜本的に解決できません。つまり、手術を視野に入れておく必要があります。

外科手術

 私どもの治療方針に基づいて、患者様にとって、もっとも合併症、後遺症の出現の可能性が低く、最大の効果を得ることができると考えられる手術方法を提示します。

手術方法の選択

 脊椎の手術には大きく分けて、前方から病巣に進入する方法と後方から進入する方法があります。それぞれの利点、欠点を対比しながら、上記手術方法が最も適していると思われる理由を説明します。
手術説明全般

手術の目的と予後について

 いずれの手術も神経への圧迫を排除することによって、神経機能の回復を期待します。ここで、大切なことは、手術は神経そのものを直接治療するものではないということです。ですから、手術は、神経がその機能を回復するにあたって良い環境をつくりだすだすものだといえます。このことによって、神経症状のこれ以上の悪化を食い止め、神経機能の回復によって神経症状の改善を期待するものです。

 症状の回復は、神経機能の回復によるものです。神経症状の回復は神経そのものの回復力によるものだということになります。この回復力は神経の障害の度合い(強さ、時間)に影響されます。すなわち、神経の障害の軽い際には回復も良いでしょうし、神経の障害の重い場合には多少の障害も残ってしまうことになります。したがって、手術によって期待される予後(神経機能の回復、神経症状の改善)は、個々の患者様の神経の障害によって異なります。各患者様の予後については、患者様の症状、状態などを総合的に判断して、手術説明の際に詳しく説明します。

手術の合併症

 手術に際して。患者様にとって色々な不利益なことを手術合併症と称しており、以下に挙げられるようなものがあります。当センターにおけるこれらの発生率は5%以下です。これは、他の施設より若干低いといえます。怖い事が以下に列挙されていますが、治療前の<説明義務>とそれにもとずく患者様側の<自己決定権>の観点から説明しなければなりません。ここでは、脊椎脊髄の手術における全般的な合併症についてのべます。個々の手術方法においてや、患者様個々における合併症の可能性について手術説明の際に詳しくご説明いたします。

1:命に関わる合併症

I: 全身麻酔にかかわるような、心臓、肺、脳、肝臓、腎臓などの重要臓器に障害が現れることがあります。特に高齢者や、基礎疾患をお持ちの方には多いかと思います。くわしくは麻酔科医にお尋ねください。

II: 手術中や手術直後にじっとして足を動かさないでいると足の血管に血の塊(深部静脈血栓症)ができてしまい、それが肺までながれていって、肺の血管を詰まらせてしまいます(肺塞栓)。命も脅かすことがあります。通常の予防手段はとっておりますが、完全に防ぐことはできません。

III: 手術で、病巣まで達するためには、肺へ空気を送る<気管>、胃へ食物をおくる<食道>、脳へ血液を送る<頸動脈、椎骨動脈>があります。これらを万が一傷つけると、命にかかわることがおあります。

IV: どんな手術でも、手術後に出血が新しく起きてしまい、それが徐々に手術したところに貯まって<気管<食道><血管><神経>を圧迫することがあります。

2:神経機能的な合併症

I: 椎間板や骨を取り除いているときに、中の神経や脊髄に障激を与えることがあります。これにより、術後に神経症状が出現することがあります。神経を切ってしまうことはありませんので、徐々に症状は改善するものと考えられます。

II: 手術操作中に神経や脊髄を覆っている膜(硬膜)が傷ついてしまうことがあります。すると、膜の中を循環している水(髄液)が漏れだすことがあります(髄液漏)。この水の漏れを放置しておくと、本来無菌の状態にある脊髄、脳にばい菌が入り込んで、感染を起こす事があります(髄膜炎、脳炎)。そのならないうちに、再度手術をおこなって、その髄液漏を修復しなければならないことがあります。

III: 病巣とは関係ないのですが、手術中に手術の進入ルートや体の他の場所に、圧迫などによる神経機能の障害が出現することがあります。これまでのわたしどもの経験から、これらを予防すべくあらゆる予防的手段を尽くしています。しかし、予期できないことが起こってしまう可能性を完全に否定はできません。

3:その他の合併症

I: 感染のおきうる可能性が2%ほどございます。もし、感染が起きたときには、移植した骨、金属を除去し、抗生物質を大量に長期間服用しなければならないことがあります。

II: 移植骨、挿入した金属、補強のために使用した金属などが、手術後にズレたりすることがあります。このような場合には、移植した骨や金属を入れ直したり、付け直さなければならないことがあります。

III: 手術の際の傷がなかなか塞がらないことがあります。このような場合には、傷をもう一度縫合しなおさなければならないことや、皮膚を移植しなければならないことがあります。

IV: 手術前後で使用するお薬のアレルギーがおこることがあります。事前にできるだけ、患者様のアレルギーにつてはチェックし、それらのお薬の使用は避けておりますが、いままでになかったアレルギーが初めておこることもあります。

V: 手術にあたっては、経験、情報をもとに、細心の注意をあらってあらゆる予防手段をとっています。しかしながら、その他に、膀胱炎、チューブのあとが体の表面に残ったりなどの、予期できない種々のトラブルが起きる事があります。

輸血に関して

 通常、脊椎脊髄の手術で輸血は必要ではありません。しかし、予期せぬ出血が起きた際の為に、日本赤十字社の輸血用血液を用意します。輸血しないように努めますが、やむおえず輸血せざるを得なかった場合は、輸血による感染(肝炎、HIV感染、未知の感染など)の危険性があります。この輸血を避ける方法として、自己血輸血という方法があります。これは、自分の血液を手術の2~3週間前にあらかじめ採取しておき、手術の際に本人に戻すという方法です。ご希望の方は、申し出てください。そのように取りはからいます。

手術を希望されるとして、入院中のスケジュール説明

入院日

 手術の3~4日前に入院していただくことが多いです。事務上の手続きと麻酔科受診察、全身状態に変化がなかったかなどのチェックを行います。

入院中

 入院されると病棟には受け持ち担当医師がおります。一般に脊椎脊髄の病気を専門に扱っている当院常勤の指導医、認定医です。他の専門の脳神経外科医も病棟におり、みんなで患者様の面倒を診ます。また、病棟では一番心強い受け持ち看護師がつきますので、何でもご不安なことはお聞きください。

 この間に外来通院中にできなかった検査を追加します。必要ならば、他科再受診察をいたします。

 手術前々日に手術説明を行います。そこで最終的に、手術への同意をいただくことになります。

 麻酔科担当医師からも、麻酔に関する事項の説明がございます。

手術当日

 朝からの手術の場合は、午前8時半頃に手術室に入ります。午後の手術の場合は、前の手術の進行状況にもよりますが、おおよそ午後1時半頃に手術室入ります。手術へ向かう際に、ご家族のご同伴は特に必要ございません。

 手術中、ご家族の方はずっと病院内で待機していただく必要はございませんが、緊急の場合に備えていつでも必ず連絡のとれるようにしておいてください。手術が終了した時点でご家族の方に手術内容の報告をいたします。その際には、必ず責任のとれる理解されている方に手術場家族待ち合い室あるいは集中治療室までお越しいただきます。

 手術後、通常は集中治療室に入ります。そこで、術直後の経過を観察します。脊椎の手術では、首でも腰でも多くの筋肉などを傷つけながら手術を行います。したがって、手術の傷の痛みが大なり小なり生じます。

その際には遠慮なく言ってください。痛み止めなどのお薬を使えるように手配します。手術後は、頸部、創部の安静を保つためにネックカラーを装着してもらいます。手術直後には寝返りは、看護師がお手伝いします。その後経過をみて例外を除いて、自分で寝返りをしてもよいようにいたします。飲水は手術後6時間程たてば、していただいて結構です。

手術後から退院まで

 翌朝、変わりがなければ、座っていただいて結構です。原則的に自分のもとの病棟に戻ります。お昼より食事がでます。午後より、看護師に介助していただいて病室の周りやトイレまで歩いていただきます。ネックカラーは常時装着していただきます。

 点滴などは、原則として手術後3日目まで行います。それ以後は患者様によって異なります。この間、体の状態のチェックと手術した部の状態を確認するために、採血とレントゲン写真撮影があります。

 多くの患者様では、術後7~10日目に傷をとめている糸(ホッチキス)を除去します。この頃に、もう一度採血とレントゲン写真、CTあるいはMRI 検査を行います。これら以降に退院が可能となります。ネックカラーの装着の必要性などについては、検査の結果などもあわせて判断いたします。

 手術合併症が起きてしまった方では、残念ですがこのようなスケジュールでいかない場合があります。このような場合、診療スタッフをはじめ患者様の為にベストを尽くします。患者さんご本人には逐次報告、説明いたしますが、ご家族なども含めて今後の治療計画、見通しなどにかんして説明する機会を設けたいと思います。

 手術の内容によっては、手術後に手術前よりも状態が悪くなる方もいらっしゃいます。その程度により、入院を続けてリハビリテーションを行っていただくこともあります。

退院時

 退院前、主治医から退院後の注意事項、今後の診察予定などにつて詳しく説明いたします。通常、退院2週間後に一度経過観察のため来院していただいております。その後は1ヶ月~3ヶ月毎の経過観察となり、3~6ヶ月後に、術後の脊髄の状態、脊椎の癒合状態などのチェックのための検査(CT、MRI)を行います。